本論は、古典・ロマン派の様式を中心とする、五線記譜法で記譜された音楽を対象とし、拍節構造の階層性と音楽表現との関係の一端を明らかにすることによって、リズムという側面から、創作・演奏表現の深化に寄与することを目的としている。
まず、「アルシス、テージス」の関係やマリー(Marie, Jean Étienne)のモデルなどの、音楽表現の表象として捉えられる「リズムの型」を拍節構造に組み込み、音楽的持続を「拍子の型」として分類する新たなリズムモデルを提案し、このモデルによって音楽現象の変化を拍節構造として捉えることができることを例証する。しかしながら、ここで捉えられる拍節構造は、一義的に決定できるような性質のものではなく、階層性を持つ。拍節構造の階層性という視点に立ち、音楽表現の決定のプロセスである演奏解釈を、演奏者による階層の選択として位置づけ、演奏解釈の多様な可能性に言及していく。
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