相模川水系下流部から採水した試料について, その溶存成分の長期的変動を解析した。試料は1993年5月から2000年4月までの7年間, 毎月1回, 11の採水地点で集められた。ICP-MSにより24元素 (Li, Mg, Al, Ca, V, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, As, Rb, Sr, Mo, Ag, Cd, Sb, Cs, Ba, W, Tl, Pb, U) , およびpH, 電気伝導度, 流量 (1995年4月より) について計測した。また原子吸光法によりNa, K, イオンクロマト法により主要陰イオンを計測し, 参考値とした。長期傾向変動は12ヶ月の移動平均を取ることにより解析した。
長期的水質変動をまとめてみると, 相模川左岸から流入する小河川では汚濁が進んでおり, Mn, Ni, Mo, Tl等の元素が本流の30~100倍の濃度で観測された。従って流量が少ないにも関わらず, 本流での濃度に大きな影響を及ぼしていた。しかしながらこれらの元素を含めて多くの元素濃度は減少傾向にあり, 少なくとも微量元素については汚濁は軽減される傾向にあった。これは (1) 排水基準が改定され工場などでの排水処理が高度化された, (2) 下流の都市部での下水道普及率が高くなった, (3) 近年の不況で工業生産活動が下がってきた, 等の理由が考えられる。
相模川本流ではLi, V, Asは不規則な変動, 季節変動を伴いながら移動平均はほぼ一定値を保っていた。しかし支流の影響が大きいMn, Ni, Mo, W等は減少傾向を示した。一方Mg, Cu, Rb, Sr, Sb, Cs, Ba, Uは振幅の小さい月間変動を伴いながら1995年から1997年にかけてなだらかな山を形成していた。この時期近傍の海老名市での降水量はやや少なかったものの, 降水量と濃度との相関は明瞭ではなかった。
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