本稿は,古墳の石室が墳丘のどの位置に構築されるかという墳丘と石室の相関性に注目し,埋葬施設の多様さが顕著にあらわれる日本列島の後期・終末期古墳を主な対象として,その地域性や時間的変化など地域的・時期的特質を論じる。
墳丘と石室の相関性を分析した結果,前期古墳以来の墳丘規模を優先する墳丘優先型,後期古墳からはじまる横穴式石室を優先する石室優先型,墳丘・横穴式石室双方を優先する折衷型の3つに分類することが可能である。
次に,3分類の分布変化から地域的な変容をたどると,墳丘優先型は,後期古墳の段階では前方後円墳築造周縁域を中心に根強く残るが,終末期古墳になると,折衷型および石室優先型の一元的波及によって墳丘優先型が駆逐されていくことが判明した。しかし関東地方以北では,墳丘優先型が根強く残存する地域が多いことが明らかになった。こうしたことから,古墳築造における優先項目は,墳丘規模を第一義におく地域,石室を第一義とする地域など,地域によって古墳築造の特質が異なると考えた。
さらに墳丘規模について検討を加えたが,後期古墳において墳丘長60m前後で墳丘の序列が変わる可能性を指摘した。石室優先型の前方後円墳に前方部を延伸させ,60mという墳丘規模を達成させた事例がみとめられることなどによる。この序列をそのまま終末期古墳に引き継いだ地域が,上野・下野・上総・下総など,関東地方の諸地域であり,西日本を起点とした前方後円墳の終焉という変革を受容しつつも,地域独自の古墳観は崩さなかったことが背景にあると考えた。そして,後期古墳における関東地方や九州地方など,前方後円墳築造周縁域の様相は,畿内地域のそれと大きく異なり,終末期古墳になると,畿内的に変容する地域が増加する一方で,畿内との違いが依然として顕著な地域が存在することを明らかにした。
抄録全体を表示