本稿は,書きことばにおけるスタイル生成のメカニズムを,山東京伝の作品をケースとして考察するものである.具体的には,山東京伝の読本,合巻,黄表紙,洒落本において,いずれも複数の形式が使用される使役形,動詞連用形,可能表現を事例として取り上げて,それぞれの形式がどのように使用されているかを整理するとともに,それぞれの作品の,あるいは同じ作品でも作品内のそれぞれの局面によってスタイルがどのように生成されているかを,書き手デザインといった視点のもとに考察した.その結果,京伝は,(1)まず,読本,合巻,黄表紙,洒落本といったジャンルに対応して,その使用することばを選択していること(グローバルデザイン),また,(2)それぞれの作品内では,(1)モード(会話文,地の文),(2)会話文における話者属性(男女,年齢,階級など),(3)文章のそれぞれの箇所における社会的,心理的,談話的な表現効果を考慮しつつ,それぞれの作品のスタイルを生成していること(ローカルデザイン)を指摘した.
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