本稿の目的は,現代中国のクロム公害について,汚染被害の実情を具体的事例から捉えるとともに,公害の背景に存在する構造的要因について考察することである。事例分析の対象とした雲南省曲靖市陸良県のクロム汚染事件では,汚染企業の20年間以上に渡るクロム残滓の放置により,河川,農地,土壌汚染の被害が工場を中心に広範に渡り,周辺地域村民の癌多発などの深刻な健康被害が報告されている。また,中国の中西部では国内の経済格差を背景に,汚染リレー,底辺への競争とみられる現象が起こっている。さらに,当地の汚染企業は,多国籍企業とのビジネスを強化し,製品は世界市場に輸出されていた。現代中国のクロム公害では,国及び地域の政治経済構造だけでなく,先進国の生産者,消費者による需要の拡大が汚染企業の繁栄を支える要因となっている。
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