本稿は,近年高齢者医療・介護サービス領域で繰り広げられている改革プログラムを観察することで,英国福祉国家の動態を捉えようとする.とりわけ,保守党から労働党へのパワーシフトが諸改革に与えた影響を,主として準市場アプローチとサービスの規制システムに焦点を当て検討することに注意を払った.第2節では準市場アプローチの定義を行い,同アプローチが導入された背景について論じている.第3節および第4節では保守党政権下の医療・介護政策の動向を準市場化の観点から観察し,改革プログラムに対する評価を試みた.第5節では労働党政権による改革プログラムについて検討し,前政権からの連続と断絶にっいて考察した.保守党政権によって導入された「分権化」を外装した規制システムは,民営化を促進し,サービスシステムに対する中央のコントロールを強めることに成功したが,サービスシステムを支えた準市場メカニズムは,サービスの効率性を高めることに大きな成果をあげた訳ではない.保守党が推進した新自由主義アプローチは,労働党によって参加型・連帯主義的アプローチへと転換が図られつつある.労働党は前政権の改革枠組みの多くを引き継いでいるが,同時にいくつか重要な変更を施している.「分権化」を外装した「集権的」システムは,強制から誘導へと規制のスタイルを代え,サービス「供給者」問競争は「自治体」問競争へ置き換えられたのである.
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