本研究は、戦前期における京福電気鉄道の4路線(越前電気鉄道・丸岡鉄道・永平寺鉄道・三国芦原電気鉄道)の沿線地域の空間形成過程を把握することに向けて、上記路線が描かれた吉田初三郎式鳥瞰図を対象に、沿線地域の名所の形態要素の抽出と分析から、空間形成過程の一端を明らかにすることを目的とする。調査方法は、吉田初三郎式鳥瞰図データベースより、作品を抽出する。次に、先行研究を参照して、鳥瞰図(表面)及び解説文(裏面)を通じて、名所の形態要素の分析を行い、名所の特徴について考察する。結果、鳥瞰図は、名所の自然物(三国周辺)、人工物(福井周辺)のように、エリア毎の特色が見られ、自社線内の路線、名所は強調して描かれていた。解説文では、自社線を中心に複数の名所を巡る旅程候補や名所を一方向に巡るだけではなく、福井より三国方面に向かい、引返して永平寺方面に向かうルートも提案されていた。また、旅行者に自社線内以外に、他社線内の名所を巡ることを企図していたと推察され、沿線地域内の回遊が意識されていたものと考えられる。
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