本研究では,地域に根ざした美術教育(CBAE)の理論的な背景を明らかにするために,現代美術における「コミュニティ」に焦点を当てる。特に,ミウォン・クォンが著書の中で引用した「コミュニティ・スペシフィック」という概念を軸に論を進める。従来の「サイト・スペシフィック」が空間との視覚的な関係を重視しているのに対して,「コミュニティ・スペシフィック」では既存の共同体との対話に基づく関わりに力点が置かれる。その手法の一つとして,日常の延長線上に「場所」を開くという形式がある。そうした場が開かれると,興味関心を共有する個人によって動機縁的なつながりが生まれていく。その結果として,既存の地域社会を基盤にしつつも,固定化された関係性に縛られることのない「もうひとつのコミュニティ」が出現する。本論を通して,アーティストによる場の創出と,それを受け入れるネットワーク構築という二つのアプローチの複合的展開の意義を示した。
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