〈目的〉 家庭科は総合性という性格をもっていることから、適切な意思決定およびよりよい課題解決を目指して、生活システムという概念を取り入れ、学習内容を構成することは意義があると考えられる。衣生活において、生活主体は、個人の生活価値に則り、衣生活システムの中の着用、手入れなどの諸要素に選好順位をつけながら、日々の生活の中で自己情報を入手し、保有し、構築している。自己情報とは、情報を受容する生活主体の側からとらえた概念である。本研究の目的は、全国3地域における中学生対象の実態調査を行い、衣生活のシステムの諸要素別に、彼らの自己情報の保有状況について、地域別・学年別・性別の比較・分析を行うことである。これらの結果を、中学生が、衣生活システムの諸要素について関心を高めることを目的とした学習内容の構成に資する。
〈方法〉 1)調査対象・時期・方法 生活の社会的条件として、店舗数および情報流通量などが異なる、東京圏、新潟県、佐賀県の中学1年生から3年生の男女合計2,383名を調査対象とした。 調査期間は2002年5月~6月であった。 方法は、主に家庭科の授業時間における配布・回収による質問紙留置法であった。
2)調査内容 先行研究から、衣生活システムの5要素として、入手、着用、手入れ、保管、処分とした。また、自己情報における5特性を「衣生活におけるある特定の経験から、その経験に関する事項についての知識があること」を経験性、「衣生活に関して、家族や友人からアドバイスなどを求められること」をアドバイス性、「衣生活に対して、関心があり、いろいろな情報を集めていること」を関心性、「衣生活に関して、身近な人の中にエキスパートがおり、いつでも質問、相談できること」をネットワーク性、「衣生活について、自分なりに評価できる基準があること」を評価性とした。これら5要素と5特性を組み合わせた46の質問項目を設定した。
〈結果〉 1)地域別 主成分分析により、「着用・入手の関心性」が第1成分をして析出された。この主成分得点は、東京圏<新潟県<佐賀県の順であり、東京と他の2地域の間に有意差が認められた。東京では、店舗数および情報量が過剰であることから、かえって着用・入手について関心が低かったと理解される。衣生活の学習内容への関心も同様の傾向であった。また、第6成分「処分の経験性」(主に古着の売買)は、主に佐賀県では他の2地域に比べて有意に低いという結果であった。地方では、フリーマーケットの機会および古着を扱う店舗の数も少なく、経験することが困難であることや、衣服を他の人に譲るなどの人間関係が保たれており、フリーマーケットを必要としない背景もあると考える。地域差の一因として、店舗数および衣生活情報量など生活社会的条件の違いが示唆された。
2)学年別 自己情報の保有状況は3年生が最も高く、生活経験に基づくものと考えられる。また、入手におけるネットワーク性に関する自己情報を1年生が最も多く保有していた。1年生は衣服の入手において、他者への依存度が高く、自立が図られる前段階であると理解される。
3)性別 46の質問事項中、40項目において、女子の自己情報の保有が男子に比べ有意に高かった。全体的には女子は男子よりも関心性、経験性、ネットワーク性に関連した自己情報を多く保有していた。入手や着用の評価性においては男女の相違がなかった。 以上より、衣生活システムの5要素、自己情報における5特性を組み合わせた質問項目を用いた分析により、地方における着用・入手の関心性、女子の関心性・経験性・ネットワーク性などが明らかになった。
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