1980年代以降、日本において障害者の旅行が注目され実行されるようになった。それは、1981年の国際障害者年をはじめ、障害者をめぐる社会に変化が起こったからであった。本稿では、まず、障害者が旅行する契機になったさまざまな事例を整理する。それらは、障害者が旅行する権利を主張し、障害者が旅行を通じ人権を獲得することができたプロセスでもあった。つぎに、これまでにおこなわれた障害者旅行に関する先行研究を、①事実記述型研究と問題指向型研究、②障害者主体型と障害者客体型といった2種類の尺度から整理し渉猟する。最後に、今後われわれが障害者の旅行をどのように研究していくのかについて論じる。本稿では、障害者が旅行することによって本人が自立することができるのではないかという仮説を立て、この自立からのアプローチにはどのような研究の可能性があるのかについて論じる。障害者の旅行から自立を考えることは、人間にとっての自立とはなにか、旅行あるいは観光とはなにかを考える上で大きな手がかりとなる可能性があるだろう。これは今後の研究課題である。
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