本研究では,筆者が製作した「魚を正面から描いたイラストレーション」について,博物画との比較を交えて考察した。既存の博物画には想像を経た再構成が含まれることを確認し,筆者の作品が博物学的な観察と先人の博物画から得られた知見に基づいて再構成されたものであり,博物画と共通の背景を有するイラストレーションであることを示した。次に魚の正面顔を描くという独自性に触れ,形質と彩色という観点から筆者の制作状況を捉え返し,前述の内容を踏まえて考察している。制作された作品の評価は,水族館において22年間で20,000枚以上が販売されたポストカードの実績として示した。本研究で得られた知見は,対象に強い興味を持って直接的な観察を行うことや,文献から得られる知識や情報,先人の理解や解釈による博物画の鑑賞が対象を観察することの質を高め,イラストレーションの完成度を高めることを示唆していると考えられる。
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