現代世界の構成単位である国民国家内部の政治空間は均一ではない。国家という大きな政体(polity)の内部に、統治と法の支配が十分には及んでいない空間が存在することがある。こうした空間の住民がある程度の独自の統治と法の支配を実践している場合、それを小政体(small polity)と呼ぶ。犯罪者集団や武装集団に支配されている地域はその例である。人類学が伝統的に研究対象としてきた王国と首長国も小政体である。本論の目的は、こうした小政体に人類学的主題として光を当てることにある。それは、国家と社会との関係や、国家自体を再考する新たな政治人類学の視座を提供するものと考えられる。
本論で具体的に論じる小政体は、南スーダンの南東部に存在する、「モニョミジ・クラスター(monyomiji cluster)」と呼ばれる、10数ほどの民族集団の社会に見られる、人口数千から数万人規模の小政体だ。これらの小政体は、政治制度として首長制(あるいは王制)と階梯式年齢組組織の両方を有する、二元的および分節的な構造をもっている。本論で注目するのは、小政体は国家に抵抗すると同時に、国家を模倣しているという側面である。そのさい、19世紀半ば以降の諸国家の暴力的で収奪的な特性が重要である。アフリカ社会に関する従来の研究では、植民地国家や脱植民地国家、および資本主義のシステムに対する抵抗の側面が強調されてきた。抵抗だけでなく模倣の側面に注目することにより、より動態的で今日的な小政体のあり方を把握することが可能になる。
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