東南アジアおよびヒマラヤのキク科植物のうち,日本に関係の深い植物について摘要し,ときに欧文にない解説を付ける.ブクリュサイ属 ブクリュウサイは,旧世界の熱帯種である.日本では九州の日向の鵜戸,四国の沖の島以南にある.岩崎灌園の本草図譜17巻19枚目には「ぶくれうさうは文政庚寅の年(1820),江戸に初めて栽う・・・・・・」とある.飯沼欲斎の草木図説の16巻29図版(1856)に,立派な図がある.欲斎は,茯苓菜琉球国志略として漢字をあげている.また「余この草の産するところをいまだ詳にせず,或は舶来という.名義また解しがたし」と書いている.大垣の近くの平林荘で栽培していたのだろうと思うと興味がある.これらの図説にあるので,牧野博士の日本植物図鑑などにも,もれなく取り上げられているが,日本では稀な,役に立たない南方の雑草である.こんなものまで栽培していた徳川時代の文化はまことに興味がある.タカサブロウ属 タカサブロウは汎熱帯種であるが,日本では東北地方にまで侵入している.街の道路の溝に沿ってよく生えている.葉が細いものや,やや幅の広いものがあって,変異は多いが,その中を区別できない.ミスミギク属 ミスミギクは旧世界の汎熱帯種である.この属はアメリカに種が多く,旧世界にはミスミギク Elephantopus scaber L. 一種だけであるから,アメリカ熱帯から古代に帰化したことが考えられる.しかし,ミスミギクは世界の中で,地域別に分化しているので,やはりアジア-アフリカ地域の原産であろう.E. scaber L. の type locality は印度である.そこでは,根出葉が倒卵状長楕円形で,葉の幅が広い.ヒマラヤのネパ-ル標本を多く見たが,琉球や台湾で見るような幅の狭いものはない.琉球,台湾,ベトナムにあるものは根出葉は倒披針形である.これを E. scaber の亜種と考える.ミスミギクの学名は E. scaber subsp. oblanceolata KITAMURA となる.泰国,カンボジヤ,ラオス,マライ半島,ジャワにあるものは,根出葉は倒披針状長楕円形で,形態上からも,地理上からも,印度の E. scaber subsp. scaber との中間である.これを subsp. oblanceolato-oblonga KITAMURA として区別する.
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