無機結晶構造データベース(Inorganic Crystal Structure Database, ICSD)には現在約 28万種類もの物質が登録されており、さらに毎年 1 万種類程度の新たな物質がデータベースに追加され、物質の多様化が進行している。近年では、物質のハミルトニアンを出発点とする「第一原理的な計算手法」を用いることで、実験的に合成されていない仮想物質の安定性や電子物性を予測することができるようになり、その多様化に拍車がかかっている。2004 年には層状物質であるグラファイトから単層グラフェンが剥離できることが報告され、「原子層構造」が結晶構造の一つに加わった。第一原理計算を用いた研究によると、数千種類の原子層物質が層状物質から剥離できると予測されている。一方、非層状物質の原子層が存在することも知られており、3次元構造と2次元構造の安定性相関の解明が望まれている。
本講義ノートでは、計算物質科学の手法に基づく物質予測の方法を説明し、原子層(2 次元物質)への適用例を紹介する。1章では密度汎関数理論に基づくエネルギー計算の手法を説明し、2 章では格子力学の基礎と密度汎関数摂動論に基づく力定数計算を説明する。3章では、様々な計算物質データベースについて概観しその特徴を把握する。特に、原子層物質に関するデータベースの現状を概観し、既存のデータベースには登録されていない「非層状物質の原子層」の安定性について考察する。
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