本種は,Moriuti (1977)によって,奈良県吉野山産のオス1個体の成虫標本をもとに記載され,その後数例の採集記録はあったが寄主植物は不明のままであった.著者らが研究をおこなっている京都市近郊二次林において,主要な鳥散布型の常緑広葉樹であり,果実生産に大きな年変動のみられる
カナメモチ
について,凶作年には殆どの果実において昆虫による加害がみられるため,季節的な果実の加害状況の調査と加害昆虫の飼育をおこなった.その結果,この
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の加害昆虫はスガ科のセジロメムシガであることが明らかとなった.
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は集散花序であり,5月中旬に開花後,8月中旬にかけて花序内の果実は数多く落下し,約半分に減少していく.野外におけるセジロメムシガの雌成虫による産卵は,この花序内果実数の減少がほぼ収束する9月後半よりみられ,1果実あたりの産卵数はおおよそ1卵となっていた.孵化した幼虫は速やかに果実や果実内の種子に穿孔し,内部を摂食していた.終齢幼虫の多くは,果実が成熟する12月後半より前に果実から脱出し,繭を形成していた.
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は果実成熟後,高い確率で鳥に被食される.セジロメムシガの卵・幼虫段階における生活史は,
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の果実に強く依存し,さらに
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の果実成熟初期における果実数の減少や,果実成熟後の鳥の被食による個体数の減少をも免れていると考えられた.このような
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果実とセジロメムシガの生活史の同調は,セジロメムシガが
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とその近縁種の果実食スペシャリストであることを示唆している.
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