本稿では,スイス・ルツェルン州による小規模私有林の経営改善の試みを取り上げ,その手法や成果を明らかにするとともに,私有林の経営改善に対する政府の支援策のあり方について検討を行った。ルツェルン州の試みは,森林所有者が任意で設立し加盟する地域組織(RO)による合理的な判断に基づく主体的な行動に依拠して,市場競争力の向上を図るものである。ROプロジェクトによって,私有林所有者の組織化は急速に進み,加盟者の収益増大を実現しており,当事者の評価も高い。プロジェクトの成功を支える要因としては,(1)組織化の範囲や程度について,森林所有者が選択できる余地が広い点,(2)RO森林官という専門家への信頼,(3)先行プロジェクトによる木材流通過程の改善,(4)風害の被災を通じた組織化のメリットの実感があげられる。ルツェルン州は,組織運営や経営に対する過剰な介入を慎みながらも,直接的,側面的な支援と不作為を通じた支援を行っている。政府の領域と民間の領域の再定義のうえで慎重に設計された支援策といえる。
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