本稿はコンテンツツーリズム領域における心理的・社会的知見の積み増しを目指して、その担い手であるファンの愛好行動に着目し、「フロー理論」およびその応用モデルの検討を通して、コンテンツツーリズムと社会の持続的な発展に寄与する「ファンのあり方」および地域が果たしうる役割について考察するものである。
フローとは、自己の没入感覚を伴う「楽しい経験」を指す。熱狂的なファンはコンテンツツーリズムの主導的な担い手になっているが、それは愛好対象に「はまっている」ことが「楽しい経験」としてフローの状態にあるからと説明することが可能である(ただし「はまる」ことは依存性の問題もはらんでいる)。
近年、愛好対象である「人物」の移動に合わせて旅行するファンツーリズムの研究が進んでおり、コンテンツツーリズムにもその影響が及びつつある。それは「場所」(ロケ地など)の影響をあまり受けない旅行形態であり、ファンと地域の人々との間で交流が生まれるというコンテンツツーリズムの特徴を相殺してしまう。そのような状況であるからこそ、作品にはまり過ぎず、依存し過ぎない、自立した「ファンのあり方」を模索しつつ、ファンと地域の人々が交流することによるメリットを再確認し、積極的に取り組んでいくべきではないかと考える。
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