中脳には聴空間と1対1に対応するマップ(機能地図)が存在することはよく知られている。そこではそれぞれのニューロンが特定の音源位置に対して同調していて, 一つの神経構造の中では各ニューロンの最適音源位置が空間的に規則正しく配列されて(トポグラフィックに)表現されている。ところが, 正常な音源定位のために聴覚皮質が重要なことは周知の事実であるにもかかわらず, 聴覚皮質にこのような聴空間マップが存在する証拠を見出そうという試みはすべて失敗に帰している。皮質のニューロンは概して空間的な同調特性が鋭くなく, 最適音源位置もトポグラフィックに組織化されていない。ここでは, 代替仮説を提案する。それは, ニューロン一つ一つが空間特異的にスパイクの時間的発火パタンを変化させることで, 聴空間を全方位的(panoramic)に表現しているというものである。ある特定の音源位置についての情報は, 多数のニューロンの集合に分散しており, これらニューロンの情報をまとめることによって, 正確な音源位置が決定できると考えられる。生理学的実験データを人工神経回路アルゴリズムで解析したところ, 個々のニューロンのスパイクパタンから音源位置を360度の全方向にわたって同定することができた。行動学的に測定した動物の音源定位判断の精度を説明するには, さほど多くない数のニューロンの集合によってもたらされる情報量で十分であることが分かった。
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