本稿では、アンデス文明初期の形成期につくられた神殿を「モニュメント」と捉える視点から、そこで得られた物質資料を分析し、神殿を対象や場とした社会的記憶をめぐる人の諸行為を読み取りながら、この時期に展開した神殿と社会の相互的な変容過程について論じる。事例とするペルー北部山地の

本稿では、アンデス形成期において、社会的統合の中心であったとされる神殿で繰り広げられた社会的記憶をめぐる多様な営みについて論じる。その際、神殿更新という反復的な社会的実践を軸に、建設活動や儀礼行為といった神殿における諸活動を通じて構築された社会的記憶が、累積的に生成、継承されただけではなく、常に変化し続けてきたことを示す。また、それを通じて、神殿が様々な社会実践が重なり合う多義的な場であったことを明らかにするとともに、異なる時間性の積み重ねによっても、社会的記憶が重層的に生成されたことについて論じる。

こうした現象を論じるためには、考古学データの特性やモノに対する特有の捉え方、近年の理論的視座を活かし、神殿で行われる諸実践における人間とモノの関係を、物性を中心とした物質性に着目しながら、詳細に検討する必要がある。本稿では、ペルー最北部に位置するインガタンボ遺跡を事例として、建築特徴や出土遺物の質的・量的変化を長期的かつ動態的に捉えることでこの問題に取り組む。

This article reconsiders the model of "Temple Renovation" which has been discussed by the Japanese anthropological archaeologists focusing on the Formative Period in the Andes. This model is based on the long-term and large-scale archaeological investigations and thus provide a solid empirical basis for building a model for interpreting architectural process of the Formative ceremonial centers in relation to the early formation process of the Andean Civilization. However, this model has not been fully examined in the context of archaeological and anthropological theories. Therefore, for the purpose of evaluating its possibilities for the future researches, this paper intends to contextualize "Temple Renovation" in the theoretical perspectives of the archaeologies of monument, which ranges from thermodynamic approaches to the practice theory and studies of materiality.