本稿はフランスの代表的旅行案内書であるアシェット社のギド・ブルー・パリに描かれるツーリズム空間のあり方を分析した.まず,今までしばしばモニュメントの歴史的美術的解説を重視する保守性が指摘されてきたギド・ブルーが,最近,界隈や通りなどの都市空間記述を増やし,変化してきたことを明らかにした次に,この都市空間記述に関し,その構造の分析およびアトラクションのランクを示す星の数と記述との関連の分析を行なった。そこでは,星の数で評価されるモニュメント的要素が記述では評価されず,逆に星の数で評価されない雰囲気的要素が記述で評価される対比性が明らかになった。さらにこの対比性の社会文化的な意味を,1950年代のシチュアシオニストの主張の中に探った.その結果ギド・ブルーとシチュアシオニストの記述様式の類似性から,ギド・ブルーにみられる雰囲気とモニュメントの対比は価値観上の対立を意味することがわかった.
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