1997年3月に中国・広西チワン族自治区の一農村において,水稲病害虫とその防除に対する農民の認識を調べることを目的に,戸別に聞きとり調査を行なった。
1.水稲収量が近年急増した要因として,多くの農民が「合理的な施肥」「改良品種の使用」とともに「病害虫防除の実践」をあげた。病害虫は水稲生産の阻害要因として最も重要であると認識されていた。
2.農民が言及した病害虫の内訳は,ズイムシ類,コブノメイガ,イネウンカ類,カメムシ類,イネノシントメタマバエ,イネ紋枯病などが多かった。
3.現在行なっている病害虫防除の手段として,回答者のすべてが「農薬散布」をあげた。農民がこれまでに使用したことがある農薬の種類の合計は,殺虫剤12品目,殺鼠剤2品目,殺菌剤1品目であった。
4.農薬の悪影響や天敵の有効性を指摘する農民も存在するものの,増収のためには農薬の使用は不可欠と考えている農民が多かった。
5.使用したことがある農薬の品目数は,漢族農民のほうがチワン族農民よりも顕著に多かった。また,各農民が知っている病害虫の種類数と耕作面積との間には有意な相関がみられた。このような相関は言語文化や資本力といった社会的背景に根ざしていることが示唆された。
6.農民の病害虫とその防除手段に関する知識は,「農業老師」などと呼ばれる試験・普及機関の職員および元職員や種子・農薬会社の販売員によっておもにもたらされているらしい。
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