本研究では,日常会話で起こるナラティブを参加者がどのように形成しているかを分析する.過去のナラティブ研究において,ナラティブ参加者の役割については,語り手がストーリーを語り聞き手がそれを理解するという形が前提として想定されているものが多い.本研究は参加者の役割をこの典型に限定しない見地で参加者の協働行為に注目する.分析にはOchsら(1992)が提唱した理論構築活動(theory-building activity)の枠組みを用いる.0chsらはアメリカの白人中産階級家族内のナラティブを観察し,ナラティブが参加者の間で3つの特性(1.説明部<explanatory component>,2.対峙可能部<challengeability component>,3.修正部<redrafting component>)を持つ協動的理論構築活動であることを明らかにした.本研究ではOchsらにならい日本語母語話者の友人間で起こるナラティブを対象に同様の理論構築活動を例証し,ナラティブにおける相互行為研究の一つの可能なアプローチを提案したい.
抄録全体を表示