ハンガリーでは,19世紀末から学術的な手法による全国規模の民間口承文学の収集と全集の刊行がはじまり,それと並行し一般向けの昔話集や通俗読み物も多く刊行された。さらに1940年代にはOrtutayが『新ハンガリー口承文学全集』の刊行により新たな研究活動を示し,OrtutayとDéghは卓越した語りの才能をもった語り手の個人研究を行った。そしてその結果のひとつとして,印刷された読み物を語り手がそのレパートリーに受け入れていることを示した。しかし,一般に西ヨーロッパの昔話の収集者は口伝えによる物語を収集する傾向があることから,ハンガリーと西ヨーロッパ地域の昔話との類話研究を行うためには,それぞれの語り手の識字力,識字力のある他の語り手とのかかわりや,居住地域の識字率を把握する必要がある。これらを背景に,本稿ではこの個人研究の対象となった3名の語り手の識字力を把握することを目的に,本人へのインタビューの記録から初等教育の状況ついて引用し,居住地域の識字率とともに事例として報告する。
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