ハインリッヒ・ハンゼルマン(Heinrich Hanselmann:1885〜1960)は,二度の世界大戦を挟み,スイスのみならずドイツ語圏の治療教育(Heilpadagogik)をリードし,第二次世界大戦後は,国際治療教育協会等の活動を通して,世界の障害児教育の復興に力を尽くした人物である。本研究では,このハンゼルマンの治療教育思想を解明する一過程として,設立期のチューリッヒ治療教育セミナーに対しハンゼルマンが果たした役割やこの時期のチューリッヒ治療教育セミナーの養成内容,この時期のチューリッヒ治療教育セミナーに影響を与えたハンゼルマンの治療教育教員養成思想の特質を明らかにした。その結果,ハンゼルマンの治療教育教員養成思想の特色として,ハンゼルマン独自の発達抑制理念に基づく養成の見解,運動原理に基づく養成の見解,労働教育に基づく養成の見解を指摘することができた。特に,ハンゼルマンの治療教育教員養成における理論と実践の統一の考え方や十分な実習期間の確保,実習におけるセミナーと施設との連携,実習中のセミナーにおける演習の設定等の実習重視の考え方,一般学生への啓蒙を意図した「治療教育科目」の設定等は教員養成機関のあり方として注目される。
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