大地という主題を人類学的に捉えるうえで、主体による客体の捕捉を通じて構築されたシステムが、やがてそれ自体に内在しながら生成された無数の雑音による介入を受けて、他なるものへと生成していく経過に着眼する方法が考えられる。大地に敷かれたシステムとして、本稿で注目するのは、ブラジルで複数の立法を通じて確立され、アマゾニアの森林居住者に集合的土地権を認定するために適用される領土と呼ばれる形式である。この領土には複数の類型が存在するが、本稿では主に先住民居住地と採取保全地について扱う。
アクリ州のジュルワ川上流域では、1980年代から現代に至るまで、領土の策定をめぐって、森林居住者たちの間で複数の運動が繰り広げられてきた。それらの運動が発生した背景として、彼らの多くが植民地的遭遇の結果としてカボクロ(混血)と先住民の性質を併せもち、いずれの領土の受益者にも合致した特徴を備えている点が挙げられる。同地域では、ゴム園制の打倒に向けた運動のすえ、1990年に採取保全地が策定された直後から、その土地の一部を先住民居住地の形式によって上書きしようとする運動が発生した。
事例研究では、ジュルワ川上流域で領土の獲得に向けて新たに生成されたパノ系民族であるクンタナワによる先住民運動を、アマゾニア西部におけるゴム経済の浸透を端緒とした植民地的遭遇の一齣として描き出す。また、この事例を通じて、領土をめぐる先住民運動が、同国の法規に従い、人類学者の関与を必然的に要求する点に着目する。この関係性が示唆するのは、大地の工学としてのブラジル人類学の姿であり、その仕事が先住民と官僚機構が遭遇する境界面における観点の翻訳という技能に立脚しているという点である。
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