1990年代以降のメラネシア人類学では、そこに存在するとされる西欧近代社会とは異なる社会性を描き出す、「新メラネシア民族誌」と呼ばれる議論が勃興してきた。これらの新たな議論は現地の実践を個人/社会といった実体ではなく、それらを横断する関係に着目して論じてきた。
これに対し本論の論点はそもそも「関係」とはいかなるものであるのかというメタ的な問いにある。こうした関係概念そのものへの反省は、近年の人類学の理論的展開の中で「ポスト関係論」として論じられてきたが、本論ではこの問題を現地の人々の土地と系譜をめぐる再帰的な知識実践に見出す。具体的には、現地の人々にとってのアイデンティティの基盤であるクランが、実は当人たちがその起源となる社会関係を認識できないというパラドックスとともに立ち現れていることに注目する。そして、森林伐採事業に伴うクラン同士の争いを通じてこのパラドックスがどのようにして人々の意識に上り、既存の社会関係の認識を改変しているのかについて考察する。
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