フランシスコ・アヤラ Francisco Ayala の短編集『仔羊の頭』(
La cabeza del cordero 1949) は「人々の心のなかの内戦」、つまり「内戦を育む人間の情念」を描く。内戦後、アヤラ文学の基本要素となる物語の断片化という手法を用いて内戦の主要舞台となったスペイン各地の都市や地方を、そして左派・右派と多様な背景をもった登場人物を各短編に登場させる。各短編でのこうした都市や人物たちを、壊れた鏡─『仔羊の頭』で提示された分裂状態の内戦下のスペイン─の破片とみなしてひとつに合わせると、スペイン全土の地図、そして勝者も敗者もいないさまざまなスペイン人の目録ができあがる。つまり物語の断片がひとつになったときに初めて『仔羊の頭』が描く内戦の全景が見えてくる。アヤラの内戦をめぐる体験、そしていまだに内戦での経験と記憶に苦しんだ、または苦しんでいる多くのスペイン人の悲しい体験が作品に加えられたことにより、読者はスペイン内戦の全景を彼らと共有することができるのである。
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