ロボットは人間をより深く理解するための質的研究に有用なツールとなりうる。本論文では,ロボットを媒介と
した参与観察について,コミュニケーション療育現場における実践例を軸にその方法と意義について述べ,質的
研究に資するものであることを論じる。おもな主張はつぎのとおりである。(1)シンプルな身体をもったロボッ
トであれば,コミュニケーションに難しさをもつ対象児からみて,その「意図」や「感情」を読み取りやすい。(2)
研究者がロボットをリアルタイムで遠隔操作することにより,対象児と意図や感情を交流させる社会的なやりと
りが可能になり,(3)当事者として対象児に対する間主観的な理解を深めることができる。(4)対象児とのやり
とりはロボットの一人称的視点から記録されるため,他の研究者がそのやりとりを追体験することができ,ここ
から対象児に対する理解を共同構成していく可能性が拓ける。これらの議論から,ロボットがコミュニケーショ
ンの質的研究における有用なツールとなりうると結論する。
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