本稿の目的は,動物葬儀・霊園が増加した経営・技術的背景を検討し,それが伴侶動物を「家族」として扱う実践に与えた影響を解明することである.先行研究では,1980年代以降,「家族」の代替物として伴侶動物の「家族化」が進展したと理解してきた.それゆえに,1990年代以降に動物葬儀・霊園が増加した理由も,伴侶動物の「家族化」を前提に,家族意識や宗教観の変化を優位において分析をしてきた.
これに対して,本稿では,動物葬儀・霊園が増加した経営・技術的な背景を検討し,伴侶動物の「家族化」の過程を相対化して考察した.本稿の方法としては,動物葬儀・霊園に携わる事業者向けに出版された経営情報資料と新聞記事を分析した.
その結果,1990年代以降の動物葬儀・霊園の増加には,移動火葬車の普及にともなう市場競争の激化が関係していたことを明らかにした.移動火葬車の普及は,さまざまな事業者の参入障壁を下げ,動物葬儀・霊園の形態を多様にした.一方で,それにともない市場競争は激化し,営利主義を徹底した悪質な事業者が社会問題を起こした.それゆえに,悪質な事業者と差別化し,動物葬儀・霊園に付加価値をつけて固定的な収入を求めた事業者は,「家族」としての伴侶動物の扱いを重視した.これらの知見から,動物葬儀・霊園における伴侶動物の「家族化」の過程には,経営・技術的な条件が影響を与えていた事実を示した.
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