本稿の目的は, 多様な音楽関係の仕事を幅広く行う, 「プロティアン・キャリア」と呼ばれる現代的な音楽家キャリアの実態を解明することである。具体的には, 専攻実技を積極的に活かして演奏家として活躍するという伝統的な音楽家キャリアモデルが内面化されやすいと考えられる音楽大学を経て, プロティアン・キャリアがどのように形成されるか, またそのキャリア観において音楽大学での学びはどのように意味づけられるかを明らかにする。個人の様々な経験の関係性を詳細に検討するために個別性を損なうことのない一事例研究とし, ライフストーリー法によって得られた語りを分析した。結果として, プロティアン・キャリアのキャリア観においては, 専攻実技からかけ離れた仕事も肯定的に包摂され, その形成過程には周囲との関係性に基づく価値観の変容が認められた。音楽大学での学びは自身のキャリアに必要な学びと対置されて意味づけられていた。
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