韓国は1987年に民主化し現行憲法へと改正されて以来30年間で, 7名の大統領のうち2名が国会で弾劾訴追され, 憲法裁判所で審判された。盧武鉉大統領のケースは棄却され, 職務に復帰した反面, 朴槿恵大統領は罷免されるなど帰結が異なっている。本稿はこうした憲法裁判所の決定や9名の裁判官の個別意見の相違について司法政治論の観点から分析する。
6対3で棄却した盧武鉉大統領のケースでは, 大統領選出の裁判官は, 国会や大法院長など他の部門によって選出された裁判官よりも, 大統領の弾劾審判において謙抑的になるという 「部門モデル」 と, 進歩派に選出された裁判官は進歩派の大統領の弾劾審判において謙抑的になるという 「党派性モデル」 の2つが妥当する。一方, 8名 (1名欠員) 全員一致で罷免にした朴槿恵大統領のケースでは, どの裁判官も, 選出部門や党派性の相違とは関係なく, 「国民情緒 (中位有権者)」 や 「我ら大韓国民」 (憲法前文) の動向に従うという 「主権者モデル」 が妥当する。つまり, 国民に直接選出された大統領の政治生命は, 国民に直接選出されたわけではない憲法裁判所に左右されたが, 憲法裁判所 (裁判官) の決定は国民の意向を踏まえたものであった。
抄録全体を表示