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クエリ検索: "ヨラ"
4,387件中 1-20の結果を表示しています
  • 山崎 勇樹, 小林 伸吾, 山影 相
    日本物理学会誌
    2025年 80 巻 10 号 584-588
    発行日: 2025/10/05
    公開日: 2025/10/05
    ジャーナル 認証あり

    近年,数学におけるトポロジーの概念と物性物理学が結び付いたトポロジカル物質が注目を浴びている.超伝導体においてもトポロジーの概念が適用でき,表面においてはマ

    ヨラ
    ナ粒子(マ
    ヨラ
    ナ準粒子)と呼ばれる特異な粒子が創発する.マ
    ヨラ
    ナ準粒子はfault-torelantな量子計算への応用も期待される新奇な量子状態であるが,その存在を検証することは極めて難しく,確立には至っていない.

    我々は,可能な全ての電磁気応答を調べ上げることで,マ

    ヨラ
    ナ準粒子に固有の現象を見出すための基礎を構築する.マ
    ヨラ
    ナ準粒子が電磁自由度を有していれば,電磁気的な手段を用いた検出や操作が可能となる.しかし実際には,マ
    ヨラ
    ナ粒子自身がもつ高い対称性のために,ほとんどの電磁自由度が消失するという問題がある.

    例えば,素粒子としてのマ

    ヨラ
    ナ粒子は,相対論的対称性によって,電荷だけでなく,磁気双極子や電気双極子モーメントをもちえない.しかし,物質表面のマ
    ヨラ
    ナ準粒子は,相対論的対称性をもたないため,多様な電磁自由度をもつ可能性がある.特に固体では,結晶の対称性を用いることで,マ
    ヨラ
    ナ準粒子がもつ電磁自由度を,マ
    ヨラ
    ナ準粒子が形成する多極子(マ
    ヨラ
    ナ多極子)として分類できる.これにより,ある結晶対称性の下で,どの成分の多極子が有限となるかが理論的に予測可能となる.

    それでは,具体的にどの成分の多極子が有限になるのか.実は,バルクにおける超伝導対称性およびトポロジカル不変量(マ

    ヨラ
    ナ準粒子の個数)と表面におけるマ
    ヨラ
    ナ多極子の間に密接な関係がある.これを用いると系の詳細に依らず一般的にマ
    ヨラ
    ナ多極子についての予言が可能になる.

    時間反転対称性を有するトポロジカル超伝導体では,2重縮退したマ

    ヨラ
    ナ準粒子が現れる.この2重縮退した状態をマ
    ヨラ
    ナクラマース対(Majorana Kramers Pair, MKP)と呼ぶ.1対のMKPは,時間反転対称性によって保護されているため,電気的な外場とは結合しない.一方で時間反転対称性を破る磁気的な外場を加えると,縮退が解け,MKPは有限のエネルギーギャップをもつ.つまり,1対のMKPは磁気多極子のみを形成する.

    この磁気多極子は,系がもつ結晶対称性に依存して様々な形をとる.例えば六方晶や立方晶系でf波に対応する超伝導状態を考えると,右図のような磁気八極子が現れる.興味深いことに,結晶対称性の下では,複数のMKPが安定に存在する場合がある.この場合は,異なるMKP間の結合によって電気多極子が形成され,電気的な応答も可能となる.

    これまでの研究により,マ

    ヨラ
    ナ多極子の分類はほぼ体系化されたが,これらの多極子が引き起こす具体的な物理現象については,いまだ未解明な部分が多い.最近我々は,2対のMKPに注目し,動的な格子歪みとの結合による表面スピン流の生成を提案した.特に,この結合は電気多極子の対称性を反映した特定の結合のみが許されるため,表面スピン流にも強い異方性が現れることが分かった.マ
    ヨラ
    ナ多極子の性質は,クーパー対の対称性をはじめとするバルク状態の情報を内包している.そのためマ
    ヨラ
    ナ多極子由来の物理現象の解明は,物質探索の指針となる可能性も秘めている.

  • 町田 理, 花栗 哲郎
    日本物理学会誌
    2020年 75 巻 9 号 570-575
    発行日: 2020/09/05
    公開日: 2020/11/18
    ジャーナル フリー

    ヨラ
    ナ粒子はそれ自身が反粒子であるという特異な性質をもった,電荷が中性の粒子である.1937年にエットレ・マ
    ヨラ
    ナによって導入されたこの粒子は,その提案から80年以上たった今でも,素粒子として存在する証拠が見つかっていない未知の粒子である.しかし,最近になって,固体中でマ
    ヨラ
    ナ粒子の特徴をもった準粒子(マ
    ヨラ
    ナ準粒子)が出現し得ることが理論的に提唱され,物質科学の分野で,マ
    ヨラ
    ナ準粒子の実現を目指した研究が精力的に行われるようになった.固体中のマ
    ヨラ
    ナ準粒子が注目される理由は,未知粒子の発見という基礎物理学的な側面だけでなく,それが外乱に強い量子計算に利用できるという実用上の重要性のためでもある.そのため,世界中でマ
    ヨラ
    ナ準粒子の舞台の理論提案・実験検証が行われている.

    固体中でマ

    ヨラ
    ナ準粒子を実現するための舞台の一つとして,トポロジカル超伝導体が挙げられる.トポロジカル超伝導体では,その準粒子波動関数が非自明なトポロジーを有しており,そのエッジや渦糸芯ではバルク・エッジ対応の帰結としてトポロジカルエッジ状態がゼロエネルギーに現れる.さらにこのエッジ状態は,超伝導体の電荷–正孔対称性によって,マ
    ヨラ
    ナ粒子の特徴である「粒子=反粒子」の性質を備えている.すなわち,トポロジカル超伝導体の表面(以下,「エッジ」)や渦糸芯では,マ
    ヨラ
    ナ準粒子がゼロエネルギー状態(マ
    ヨラ
    ナゼロモード)として現れるのである.

    これまでに,様々なトポロジカル超伝導体候補物質のエッジや渦糸芯においてマ

    ヨラ
    ナゼロモードの検出を目指し,走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いたトンネル分光測定が行われてきた.しかしながら,通常,渦糸芯ではゼロエネルギー近傍に有限のエネルギーをもつ自明な束縛状態も存在するため,如何にしてこれらとマ
    ヨラ
    ナ準粒子を区別するかが最大の課題となっている.

    この問題を解決するために,本研究では,自明な束縛状態とマ

    ヨラ
    ナゼロモードとのエネルギー差が100~200 μeVと比較的大きいトポロジカル超伝導体候補Fe(Se, Te)の渦糸芯に着目し,極めて高いエネルギー分解能(~20 μeV)を有する超低温希釈冷凍機STMを用いて実験を行った.その結果,マ
    ヨラ
    ナゼロモードを示唆するゼロエネルギー束縛状態(Zero energy Vortex Bound State, ZVBS)と有限エネルギーの自明な束縛状態の分離に成功し,さらにZVBSをもつ渦糸ともたない渦糸が共存していることが明らかとなった.様々な磁場でトンネル分光により数百個の渦糸芯を系統的に調べた結果,ZVBSの有無は局所Se濃度,不純物分布,超伝導ギャップの不均一性といった試料の局所的性質とは無関係であることがわかった.また,外部磁場の増加によってZVBSを示す渦糸芯の割合が系統的に減少することも新たにわかった.これは,ZVBSの有無を理解する上で渦糸–渦糸間相互作用の重要性を示唆しており,将来的にマ
    ヨラ
    ナ準粒子を制御する際に重要な知見となると考えられる.

    本研究で観察されたZVBSは,マ

    ヨラ
    ナ準粒子の兆候の一つに過ぎない.観測されたZVBSがマ
    ヨラ
    ナゼロモードによるものであるかを決定付けるには,ゼロエネルギー状態以外のマ
    ヨラ
    ナ準粒子に固有の特徴を実験的に捉える必要がある.その例として,マ
    ヨラ
    ナゼロモードのスピン偏極状態やコンダクタンスの量子化の検証が今後の課題である.

  • ベータ崩壊と弱い力の物語
    吉田 正
    日本原子力学会誌ATOMOΣ
    2014年 56 巻 8 号 521-524
    発行日: 2014年
    公開日: 2019/10/31
    解説誌・一般情報誌 フリー

     遅発中性子の放出には時間遅れが伴い,それが原子炉の制御を可能にしている。原子炉工学の基本である。原子炉崩壊熱の放出にはさらに長い時間がかかる。ともに原子核のベータ崩壊に伴う現象であることが大きな時間遅れの原因である。ベータ崩壊は自然界の第四の基本的な力,弱い力によって引き起こされる。本稿では,この弱い力を軸に,基礎物理学探求の歴史を物語風にたどる。主役は,謎めいた基本粒子ニュートリノであり,原子炉で生まれるニュートリノを用いた弱い力に関わる最新の実験も概観する。

  • 佐藤 昌利
    日本物理学会誌
    2014年 69 巻 5 号 297-306
    発行日: 2014/05/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    1937年,Majorana(マ
    ヨラ
    ナ)によって,電気的に中性な素粒子を記述する新しいフェルミオンが導入された.のちにマ
    ヨラ
    ナフェルミオンと命名されたそのフェルミオンは,複素数の場で表される通常のディラックフェルミオンと異なり,実数の場で表すことができ,そのため自分自身が反粒子であるという特徴をもつ.ニュートリノがマ
    ヨラ
    ナフェルミオンであると期待されているが現時点では直接的な実験的証拠は見つかっていない.ところが,最近,超伝導体の励起状態としてマ
    ヨラ
    ナフェルミオンが実現される可能性が議論され,実際に実験によってその証拠が報告されはじめている.この記事では,素粒子の世界でなく,超伝導体という通常の電子の世界で何故マ
    ヨラ
    ナフェルミオンが実現されるのかということを解説する.まず,最初にマ
    ヨラ
    ナフェルミオンが実現される舞台であるトポロジカル超伝導体について説明する.トポロジカル超伝導体とは,基底状態の波動関数から計算されるトポロジカル数がゼロでない値をとるトポロジカル相の一種である.トポロジカル相には,バルク・エッジ対応と呼ばれる数学的構造よりその表面に質量ゼロのディラックフェルミオンに類似の集団励起が存在する.更に,超伝導体では,クーパー対の存在によって,電子とその反粒子である正孔とが同一視され,そのため,超伝導体中のフェルミオン励起は自分自身が反粒子となる.この2つの条件が重なることで,自分自身が反粒子であるディラックフェルミオン,すなわちマ
    ヨラ
    ナフェルミオンがトポロジカル超伝導体表面で実現されることになる.マ
    ヨラ
    ナフェルミオンがトポロジカル超伝導体で実現されることは,2000年にReadとGreenによって分数量子ホール状態とスピン三重項超伝導体の類似性を用いて初めて示された.トポロジカル超伝導体内の超伝導渦にマ
    ヨラ
    ナゼロモードが存在すると,渦自体の統計性がボーズ統計から非可換統計(粒子の交換によって新しい状態が作れる統計)へと変化することが示され,量子コンピュータなど新しいデバイスへの応用の期待から,注目を集めることとなった.しかしながら,スピン三重項超伝導を実現する物質が非常に少ないこともあり,実際にマ
    ヨラ
    ナフェルミオンが実現されたという報告はなかった.ところが,2003年の筆者の研究に続いて,2008年にFuとKaneがディラックフェルミオンのs波超伝導状態でマ
    ヨラ
    ナゼロモードを実現する可能性を示したことを発端とし,非可換エニオンを実験室で実現する機運が高まってきた.更に,2009年に筆者と藤本氏によって,通常の電子のs波超伝導状態もスピン軌道相互作用とゼーマン磁場によって,トポロジカル超伝導体へ相転移することが示され,冷却原子系からナノワイヤー系まで様々な系でマ
    ヨラ
    ナフェルミオンが実現可能であることが明らかになった.
  • 松尾 貞茂, 馬場 翔司, 上田 健人, 鎌田 大, 館野 瑞樹, Joon Sue Lee, Borzoyeh Shojaei, Chris Palmstrom, 樽茶 清悟
    日本物理学会講演概要集
    2016年 71.2 巻 13aBH-8
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/05
    会議録・要旨集 フリー

    近年、半導体ナノ細線中の磁場誘起ヘリカル状態をはじめとしたトポロジカル物質と超伝導体との接合系において、マ

    ヨラ
    ナ粒子の実現と非可換統計の実証を目指した研究が活発に行われている。ナノ細線を用いたマ
    ヨラ
    ナ粒子の実現には非常に高品質な超伝導接合、およびスピン軌道相互作用を持つ一次元電子系が必要であり、これらの制御を行うことがマ
    ヨラ
    ナ粒子の実現に向けて大きな課題となっている。本講演では、マ
    ヨラ
    ナ粒子に起因する超伝導輸送特性の研究を行うために、超伝導体Alをキャップ層として持つ高移動度InAs量子井戸基板から超伝導接合を作製し、その輸送特性の評価を行った結果を報告する。

  • 宮崎 俊輔, 水島 健, 鶴田 篤史, 藤本 聡
    日本物理学会講演概要集
    2017年 72.1 巻 18aC-PS-17
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/19
    会議録・要旨集 フリー

    トポロジカル超伝導体の端や超伝導渦の中に現れるマ

    ヨラ
    ナ粒子は、電子と正孔の等しい重ね合わせにより作り出される準粒子である。マ
    ヨラ
    ナ粒子はその非局在性から攪乱に強く、また、フェルミオンでもボゾンでもない新しい量子統計「非可換統計」に従うため、量子計算に応用される事が期待されている。本研究では、2つのマ
    ヨラ
    ナ粒子の交換ダイナミクスを計算シミュレーションを用いて再現し、非可換統計の実現可能性について探る。

  • *山影 相
    表面科学学術講演会要旨集
    2017年 37 巻 3Ba09
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/08/17
    会議録・要旨集 フリー
    トポロジカル超伝導体は,その表面にマ
    ヨラ
    ナ粒子が現れるため,興味深い現象が現れる可能性がある.一方,常伝導状態においても同様の系があり,トポロジカル絶縁体と呼ばれている.その表面にはディラック電子が現れるが,トポロジカル絶縁体がトポロジカル超伝導になると,表面ディラック電子と表面マ
    ヨラ
    ナ粒子が混成しリフシッツ転移を起こす.これは表面敏感な輸送現象に異常を与える.
  • ウェッシンガー キャサリン, 粟津 賢太
    宗教研究
    2012年 86 巻 2 号 243-273
    発行日: 2012/09/30
    公開日: 2017/07/14
    ジャーナル フリー
    二〇〇五年八月二九日にニューオーリンズをはじめルイジアナ州やミシシッピ州のメキシコ湾岸地域を襲ったハリケーン・カトリーナによる災害は、さまざまなタイプのおびただしい宗教的応答を促した。個人化されたスピリチュアルな応答もあれば、特定の宗教教団の見解に沿ったものもあった。一方で、災害を罪に対する神の懲罰であるとみなすネガティヴな宗教的対応もあった。(なにゆえに神は人々が苦しむことを許したのかを説明する)懲罰的な神義論は、個人や会衆によって組織化された救済活動を阻むものではなかった。しかしながら、救済するつもりのない外部の者によって示された懲罰的神義論は、ある特定の政治的神学的な意図を普及させる手段であった。他方で、カトリーナ災害への宗教的応答のほとんどはポジティヴな宗教的対応を示しており、人々に高次の力からの慰籍を与え、他者を助けようと志向させ、被災者を非難しない思慮深い神学的な説明を受け入れさせた。宗教的観点から動機づけられているか否かにかかわらず、傍らに寄り添い、同情的かつ共感的に耳を傾ける存在はカトリーナの被災者たちにとって大きな助けとなった。
  • 中川 利彦
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 8-13
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    Key Sentences:
     未成年者の喫煙を防ぐためには未成年者喫煙禁止法を厳格に適用し、またたばこ自動販売機を撤廃し対面販売に限定すべきである。
     権利や自由といえども他人の生命健康を害することは許されないから、喫煙の自由は無制限に認められるものではなく、公共の場所や職場など非喫煙者と共有する空間、非喫煙者が利用する可能性のある場所は全面禁煙か完全分煙にしなければならない。
     学校・病院などはその目的から敷地内全面禁煙にすべきであり、喫煙の自由はその範囲で制限を受ける。
     禁煙推進のためには、たばこ事業法を全面改正する必要がある。
  • 東山 明子
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 4-7
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    Key Sentences:
    ・21世紀に入りスポーツ界における禁煙化が世界レベルで進んできている。
    ・しかし、成人アスリートや指導者の喫煙は依然として存在し、アスリート自身のパフォーマンスや未成年アスリートへの喫煙の連鎖に影響している。
    ・禁煙支援には、アスリートに関わる人々による心理的支援が有効である。
  • 中山 健夫
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
    EBMの発展と疫学:
     「医療の質」評価に対する社会的関心を背景に“エビデンス(根拠)に基づく医療(Evidence-based Medicine, EBM)”は、1990年代半ばから急速な発展を遂げた。
     現実の医療現場での意思決定は「限りある医療資源」のもとで、「医療者の経験・熟練(clinical expertise)」「患者の嗜好・価値観(patient preference)」「研究によるエビデンス(research evidence)」が勘案されて行われる。EBMは「個々の患者のケアに関する意思決定過程に、現在得られる最良の根拠(current best evidence)を良心的(conscientious)、明示的(explicit)、かつ思慮深く(judicious)用いること」とされる1)。
     EBMの前身とも言えるのが、「臨床疫学」である。「臨床疫学」とは、地域住民を主たる対象として、数々の疾病の原因(または危険因子)を解明してきた「疫学(epidemiology)」が、臨床の問題を解決するために応用されたものである。LastによるDictionary of Epidemiology は、疫学を「特定の集団(specified population)」における健康に関連する状況あるいは事象の分布(distribution)あるいは規定因子(determinants)に関する研究」2)と定義している。
     本論では数回にわたって、禁煙科学を推進するのに有用と思われる疫学やEBMの基本的な考え方を紹介していきたい。
    臨床医の感覚と疫学的視点:
     身近な例で考えてみよう。多くの臨床医は、自分が(そこそこの)名医であるというささやかな自負を持っている。「自分の外来に来る患者さんは、『先生のおかげで良くなりました、先生は名医です』と言ってくれる」という話もよく聞く。しかし、だからと言って、このような話だけで、自分を名医といって良いだろうか?
     少し考えれば分かるように、「良くならなかった患者さんは何も言わずに転院している」かもしれない。残念ながら、外来に通い続けていて、臨床医が診ている(というより臨床医に見えている)のは一部の患者さんに過ぎない。これは「脱落例(dropout)」という、疫学やEBMの視点で情報を読み解く際の基本的な、そして最も大きな落とし穴の一つとなる。疫学的な適切に検討を行うには、受診した患者さんを全員登録して追跡調査を行うことが必要となる。こうして初めに受診した患者さん全体を「母集団」と考え、何人が転院し、そのうちの何人が良くなり、何人が良くならなかったのか、きちんと割合を示すことができる。当たり前のことのようでいて、これすらも疎かにされている学会発表は少なくない。意図的でも(治療成績を良く見せるには、予後の悪そうな患者さんは除外する=初めから診ない、という場合も考えられる)、意図的でなくても、「母集団」のうちの多くが脱落した後に残ったケースだけから判断する誤りを、疫学的には「選択バイアス」による誤りと言う3)。
     症例報告が医学の進歩に大きな役割を担ってきたことは確かであるが、臨床現場では「例外的な1例」を(学会発表のため?)大事にしすぎる傾向があるかもしれない。特に初期研修の際は、個々の症例、つまり分数の「分子」にあたるケースを病理学的・生理学的に突き詰めようとするトレーニングが重視される。これをもとに研修医が、ほとんどすべて症例報告で占められている学会の地方会で発表することは当然のように受け容れられている。一方、分数の「分母」、すなわち目の前の患者さんが由来してきた「母集団」を意識する、場合によっては適切に取り扱う術はほとんど学ぶ機会が無かった。この術こそが疫学であり、臨床疫学である。EBMへの関心の高まりから、疫学的な考え方への認識が広まりつつあることは歓迎すべきことと言える。
     次号でも事例を用いて、疫学・EBMの考え方の基本を解説していきたい。
  • ~禁煙マラソンにおける意志のはたらきの一考察
    平松 園枝, 高橋 裕子
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 29-37
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     イタリアの精神科医ロベルトアサジオリ(1888~1974)はその著書「意志のはたらき」の中で、「巧みな意志」について述べ、行動には「強い意志」だけでなく「巧みな意志」がしばしば使われることを指摘した。「巧みな意志」を使うことは、日本ではほとんど注目されていない。しかし実際には、日本における行動変容においても「巧みな意志」を使っているとの理解が可能である。
     本稿では、行動変容では「強い意志」のみならず多様な意志が使われ、中でも「巧みな意志」と呼びうる意志を多く使っている実態を、禁煙マラソンに送付されたメールの言葉やメールから読み取れる事実をもとに検証した。現在の教育や社会において、主体性教育が重視される中で、強い意志以外のさまざまな意志のはたらきがあることを意識することや、「巧みな意志」に着眼することによって、医療における行動変容や教育をはじめとする多くの人間成長に関わる分野に新たな展開がもたらされる可能性がある。
  • 奥田 恭久
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 25-28
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     高校生らしき若者がタバコを吸う姿をみかけるのはそうめずらしくない。学校では喫煙が発覚すると謹慎処分が下されるなどペナルティーが科せられる。しかし生徒が学校生活のなかで喫煙を我慢できず、校内でタバコを吸ってしまうケースが結構多いのが実情である。タバコを吸った生徒を罰するだけの喫煙防止対策では、生徒をタバコから切り離すことはできない。これに対して週刊「タバコの正体」の配布による喫煙防止教育を過去2年あまりにわたり実施してきたので、経過と成果を報告する。
  • ~敷地内全面禁煙施行2年を経過して~
    山本 眞由美, 田中 生雅, 武田 純, 黒木 登志夫
    禁煙科学
    2007年 vol.1 巻 03 号 18-24
    発行日: 2007年
    公開日: 2021/11/04
    ジャーナル オープンアクセス
     岐阜大学では平成17年度から構内全面禁煙を施行し、喫煙所をすべて撤去した。しかし、屋外でかくれて喫煙したり、そのために吸いがらが増えたなどの問題点を指摘されるようになった。調べてみると、学生のみでなく大学職員の喫煙者も関与している事が判明した。そこで、今後の改善策をたてる目的で、喫煙職員を対象に自記式調査を実施したので報告する。平成18年度の職員定期健康診断を受診した1,596名全員に無記名自記式調査票を配布し、記入後回収した(回収率100%)。そのうち、喫煙者は150名で喫煙率は9.4%であった。この150名に対し、喫煙に関する知識や構内禁煙についての意識などに関する調査票を配布した。1日の平均喫煙本数は14.7±8.2本で、平均喫煙年数は16.5±10.3年であった。喫煙者の60%以上が起床後最初の喫煙開始まで30分以内であり、就業時間中に全く喫煙しないという事はむずかしいと推察された。また、80%近くが禁煙について関心をもっているものの、直ちに禁煙したいと答えたのは10%未満であった。禁煙することについて 「全く自信がない」 を0%、「大いに自信がある」 を100%とした時、50%以上の自信があると答えたのは喫煙者の50%であった。構内全面禁煙に関わる諸問題を解決させるためには、職員の禁煙サポート体制の充実が不可欠であることが示された。
  • その現代的意義および内在的批判
    デービス ブレット
    西田哲学会年報
    2013年 10 巻 203-183
    発行日: 2013年
    公開日: 2020/03/22
    ジャーナル フリー
    文化や異文化間関係に関する西田の論文や講演は、1934 年から 1945 年の混乱 した時期に発表された。それにもかかわらず、西田は現代のポストコロニアル思 想をめぐる議論に大いに貢献できるような文化論や異文化間関係論を展開した。 それは高く評価すべきのみでなく、それから学ぶべきことが多大にある。本論文では、西田の多文化的世界観の現代的意義を究明したいと思う。もちろん西田のテクストには批判すべき点もある。たとえば、排他的な日本主義を明白に拒みながらも、包括的な日本主義を示唆している箇所がたしかにあることである。しかし、それを批判するために、他の哲学や倫理思想に依拠する必要はないと思われ る。なぜなら、西田自身の核心的で原理的な思想に基づき、そのより周辺的であ る日本主義的な発想や時折の発言に対する〈内在的批判〉を行うことが充分できるからである。 本論文の第一の目的は、西田の多文化的世界観の原理や核心的な思想を究明す ることである。それは最初の四節において行われる。1.「欧米中心主義と日本中心主義を超える道への探究」。2.「絶対無の場所― 異文化間対話の究極な背景として」。3.「原文化― 文化的多様性を支える普遍的な「幹」」。4.「日本哲学 ― 普遍性への特殊的な貢献」。そして、残りの二節では、以上見た西田自身の 異文化間関係の原理的な思想に基づき、問題的な考えや発言のいくつかについての〈内在的批判〉を行う。5.「脱線― 〈包括的な日本主義〉の時局的な主張」。 6.「内在的批判― 時には西田をもって西田を批判する」。 このように、時には〈内在的批判〉を含めながらテクストを読んでゆけば、西 田の異文化間関係についての考察は、現代のいわゆるグローバル化している世界における粘り強い欧米中心主義を批判するのみでなく、真なる異文化間対話に基づく「世界的世界」を想像・創造することの大きな手助けとなるであろう。
  • 井上 弦, 長岡 信治, 杉山 真二
    第四紀研究
    2006年 45 巻 4 号 303-311
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/07/27
    ジャーナル フリー
    長崎県島原半島南東部において, 姶良Tnテフラ (AT) を挾在して累積する黒ボク土を見出し, その成因について検討した. その結果, 島原半島南東部の黒ボク土は, 雲仙火山の山体周辺の裸地からの風成堆積物, および雲仙火山から直接噴火・堆積した細粒なテフラを主母材にしたと考えられた. 島原半島南東部の黒ボク土は, 少なくとも姶良Tnテフラ堆積以前から生成していたと考えられる. また黒ボク土は, 最終氷期後半の寒冷期においても, ミヤコザサ節などの草本植生を有機物の主体として生成した. すなわち, 有機物と火山噴出物の供給のバランスにおいて, 寒冷な時期にあっても有機物の供給が優勢な条件により, 黒ボク土の生成が継続したと考えられる.
  • *ロ
    ヨラ
    パブロ, 松尾 豊
    人工知能学会全国大会論文集
    2015年 JSAI2015 巻 1L5-5
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/07/30
    会議録・要旨集 フリー

    We propose a cascade-based approach to model the indirect communication between agents and how it influences the dependency between the activities performed.

  • 林 青司
    日本物理学会誌
    2024年 79 巻 12 号 690-691
    発行日: 2024/12/05
    公開日: 2024/12/05
    ジャーナル 認証あり
  • 会誌編集委員会
    日本物理学会誌
    2016年 71 巻 4 号 207
    発行日: 2016/04/05
    公開日: 2016/06/03
    ジャーナル フリー
  • 笠原 裕一, 水上 雄太, 芝内 孝禎, 松田 祐司
    日本物理学会誌
    2019年 74 巻 9 号 639-645
    発行日: 2019/09/05
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    電子は電荷-eとスピン1/ 2を持ち,フェルミ統計に従う素粒子である.マクロな数の電子の集団が示す劇的な現象に,磁場中の2次元電子ガスで観測される整数および分数量子ホール効果がある.前者は電子状態のトポロジーという基本的な概念を生み出した.後者では電子間の多体効果により分数電荷の粒子やフェルミ統計ともボース統計とも異なる分数統計に従う粒子,エニオンなどの奇妙な準粒子が現れる.

    近年,量子スピン液体と呼ばれる状態を持つ絶縁体が注目を集めている.量子スピン液体では,量子ゆらぎの効果のために絶対零度までスピンは凍結しない.このスピン系においてキタエフ模型と呼ばれる興味深い量子多体模型が提案されている.スピン1/ 2が2次元ハニカム格子を形成し,キタエフ相互作用と呼ばれるボンドに依存したイジング型の交換相互作用が存在したとき,基底状態は厳密解を持った非磁性の量子スピン液体状態となるというものである.この量子スピン液体では,一個の局在スピンが量子力学的多体効果により他のスピンと強くエンタングルした結果,二種類のマ

    ヨラ
    ナ・フェルミオンが低エネルギー素励起に現れる.

    最近の研究で,ハニカム格子2次元磁性体α-RuCl3は,キタエフ相互作用を持ち磁場中で量子スピン液体の基底状態を持つ候補物質であることが明らかになってきた.我々はα-RuCl3の熱ホール効果を測定し,熱ホール伝導度が磁場に対して一定値(プラトー)をとり,その値が電子系の量子ホール効果状態で観測される値の半分の値に量子化されていることを示した.絶縁体スピン系における半整数熱量子ホール効果の観測は,系がトポロジーにより保護された状態にあり,通常のフェルミオンの半分の自由度を持つ中性の粒子,すなわちマ

    ヨラ
    ナ・フェルミオンが存在していることの決定的証拠となる.

    電子系の量子ホール効果では,電流および熱流は試料の端に形成されるエッジ状態の1次元伝導チャンネルによって運ばれる.エッジ流は,整数量子ホール効果では電子流であり,分数量子ホール効果では電子相関によって分数に量子化されたホール流である.これに対し半整数熱量子ホール効果状態では,遍歴するマ

    ヨラ
    ナ・フェルミオンのエッジ流により熱が運ばれる.つまりエッジ流が分数量子ホール効果では電荷の分割(分数電荷)に深く関係しているのに対し,半整数熱量子ホール効果ではスピンの分割(マ
    ヨラ
    ナ・フェルミオン)に由来している.さらにα-RuCl3では,高磁場で量子化は消失し,熱ホール伝導度は急速にゼロになる.これはマ
    ヨラ
    ナ・エッジモードを持つ状態と持たない状態の間のトポロジカル量子相転移の可能性を示唆している.

    半整数熱量子ホール効果は,試料のエッジから離れたバルクの状態において,非可換エニオンとよばれる特異な統計性を持つ準粒子の存在も示している.この準粒子は,量子情報を安定した形で保つことができると考えられているため,将来のトポロジカル量子コンピューターへの応用の可能性が注目されている.

    本記事は規定の長さを超過しておりますが,編集委員会の判断によりこのまま掲載しております.

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