本事例は,高校生の女子との面接過程である。筆者は,クライエントと絵との関係の変容に注目した。
本事例はクライエントが自身の絵を持ってきてTh に見せるという形で進行した。絵のイメージを共有していくと,次第にクライエントと絵との関係が変化していった。それは,Th に絵を秘密にする,絵を捨てる,新しい絵の描き方を始めるといったものであった。クライエントのそれらの行動を理解するために,本論文においてはKristeva のアブジェクシオンの論考を参考にした。この事例において,面接初期のクライエントにとって絵はポジティブな母なる機能を果たしており,クライエントは絵という母なるものと一体になった状態であった。しかし,面接が進む中で絵との関係が深まると同時に,ネガティブな母なるものの側面を感じ始めた。そして,最終的には母なるもの(絵) と一体の状態を否定し,一定の距離を持った新たな絵との関係を築いた。そのことは,クライエントに客観的視点という新たな視座を確立させることにつながった。
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