1.調査地域は兵庫県社町の農耕地である。隣接して散在する灌漑用水池を巡る堤防と法面,並びに1部休耕田を含む3haを調査の対象とした。
2.1979年には34回,1980年には35回の調査を行ったが,セッカの初鳴は4月中旬であり以後急激に数を増し,8月中旬までの間には多くの巣を見る事が出来る。9月中旬には停鳴期に入り,大多数のものは越冬地に渡去し,冬期滞留するものは極めて僅かとなる。
3.調査した巣は1979年には40個,1980年には52個である。両年度を通じ5月,6月にはそれぞれ25巣,7月24巣,8月には18巣を記録した。セッカは4月下旬から営巣にかかり,8月になると新規に営巣されるものは急激に減る。
4.繁殖期♂は長時間に亘り上空を飛行するが,♀は主としてくさむらの間を潜行する。野外に於ける♂♀の識別はなき声以外には容易でない。繁殖期の♂は頭上がパステル褐色であるが,♀の頭上は黒色で不鮮明な黄褐色の縦斑がある。♂が低木に止って鳴く時は口腔内は漆黒であるが,♀は黄色である。
5.♂は複数の外装のみの巣を作り,番が形成されると♂♀共同でチガヤやススキの花穂を運んで内部の産座を作る。初卵産卵後も巣の補修は行なわれるが,1巣分の卵が産み揃うまでに巣は完成して♀は抱卵にかかる。ほぼ10日後に雛が孵化すると♂♀共同で育雛にあたる。調査した巣はいずれも一夫一妻であった。
6.営巣草本は両年度共95%以上がチガヤとススキである。5月中は64%がススキに営巣されるが.6月,7月と徐々に減り8月には11%になった。一方チガヤに営巣されるものは5月には28%であったが徐々に増し,8月には80%以上がチガヤに営巣された。5月にはススキの草丈は短かいが,生長するに従い営巣するものが少なくなる。チガヤは5月ではセッカの営巣には草丈が短かすぎるが,生長するに従い営巣するものが多くなる。
7.90巣につき地上から巣底までの高さを計測したが,営巣した草本が生長するのに従い巣の位置は高くなる。ススキは生長が早く,20日間に巣の位置が23cm高くなったものがある。チガヤはススキ程生長が早くないので,雛の巣立時でも構巣時とあまり変らない。90巣の地上高は20cmから30cmのものが26巣と最も多く,10cm以下のもの50cm以上のものがそれぞれ7巣で最も少なかった。ほぼ70%が10cmから40cmの間に集中している。営巣初期の5月中は一般に巣の位置は低いが,8月には草丈の生長につれ高くなり,20cm以下の巣は全く見られなかった。
8.♂が外装のみを作った巣のうち,番が形成され巣として利用されたものは55.7%であった。巣は葉の縁に嘴であけたと思われる小さな穴にクモの糸を通して葉を綴り合せるが,糸のぬけるのを防ぐため一端は糸がこぶ状になっている。葉のすき間や巣底,側面にはチガヤの花穂を多量に使用するが,巣材としてはほかにチガヤとススキの枯細根,加工綿,スゲ,ネザサの枯葉などであった。
巣は長楕円形で上部に入口がある。巣高はほぼ18.3cm外側直径7.5cmで入口は6~7cm×3~4cmであり,雛が成長して親鳥の出入が頻繁になると入口は拡大され巣はつぼ型となる。
9.1腹の卵数は4卵から7卵であるが,大多数は5卵と6卵で,平均5.7卵である。
10.調査地域で測定した新鮮な26卵の平均重量は1.24gで偏差は極めて微小であり,長径平均16.0mm,短径11.7mmであった。地色は白色のものと淡青色のものと2型あり,いずれも褐色微小斑が散布している。
11.11例によると抱卵日数は10日~12日,孵化後巣立までに11日~12日を要した。
12.セッカは第1回目の繁殖に成功した時でも2回目の繁殖を行うが,外敵により失敗に終ると,3回目の繁殖を試みるがこれも成功せぬとその年の繁殖は断念する。
13.繁殖用の巣として利用されたものは♂の作った巣型のうち60%であるが,そのうち巣立に成功した巣は42.6%だけである。巣立不成功の原因は主として外敵によるものであり,38.7%はネズミ類による被害,32.4%はヘビによるものであった。
14.産卵された卵は249個であり,雛が巣立に成功したのは49.4%であった。1腹の卵数は平均5.7個であるから,年2回繁殖すると11.4羽が生産されることになる。所が巣立成功率は49.4%であるから平均1番から5羽が巣立することになる。巣立後事故によって死ぬものも多いが,この様な繁殖成功率を繰り返し,種族の維持が保たれている。
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