1.はじめに 土砂災害が発生する条件やメカニズムの理解は、居住地周辺の自然環境を学ぶことによって成されると考える。身近に存在する自然災害発生要因を理解するためには、野外にて自然環境を確認することが必要である。一般的に登山などの自然に接する際に注目される自然環境は、動植物である場合が多く、地形・地質環境に目が向けられることは少ない。土砂災害への認識を高めるためには、この地形・地質環境へ目を向けることが必要である。 そこで、住民が周辺自然環境を理解する一手段として活用することを目的として、
広島市
安佐南区に位置する荒谷山長楽寺登山道において、地形・地質環境を含めた自然環境を記載し、花崗岩山地における特徴と比較検討を行った。2.調査地域および方法
広島市
安佐南区に位置する荒谷山(631.3m)は、中_-_粗粒の黒雲母花崗岩からなる中起伏山地である。山体は中央部の深い谷によって南北2つの部分に分けられている。アカマツと広葉樹・照葉樹の混交林に覆われている南麓は、農地や林地として利用されていたが、1970年代以降に大規模に改変され、宅地造成が急勾配河川の谷口にも及んでいる。この地域では、1928年・1964年に土石流が発生しており、最近では1999年6月29日(6.29災害)に発生している。1999年には谷出口の住宅に土石流が襲い、人的被害を出した。 調査は、1/2,500国土基本図を基に山頂から山麓まで長楽寺登山道に沿った縦断面図を作成するとともに、登山道沿いの植生、地形、土壌の観察、および土層断面の記載を行った。土層断面の記載には簡易貫入試験機を用いたほか、一部「長楽寺土地地区整理造成計画に伴う土質調査報告書(_(株)_宏洋調査設計・旭土質調査_(株)_,1994)」の結果を加えた。調査は2002年8月と10月に行った。 門村(1972)によると、この地域の花崗岩山地では一般的に、高度200-300m以上の山腹斜面は、山麓緩傾斜地の上に峻立し、30-40°以上の急斜面を形成している。この急傾斜の上部では、風化帯は薄い。尾根型斜面における未風化基盤岩の露出は少なく、山稜上の一部にブロック化した核岩の露出をみる程度である。また、山稜上付近の比較的緩傾斜の斜面は、風化帯がやや厚くなり、針広混交の天然林のところでは、落葉層・腐植層もよく残留している。崩壊が多発しているのは、山体上部の急傾斜の斜面である。崩壊発生の地形的位置は、ほとんどが浅い谷型斜面の谷頭部である。尾根型斜面に発生している例はなく、渓流谷壁に発生しているものも少ない。3.荒谷山における自然環境 長楽寺登山道入り口から、荒谷山山頂までの縦断形は、門村(1972)が示す模式図と類似している。登山道入り口には、ため池があり、その上流部には古い土石流堆積物がみられる。付近には、堆砂が進んだ砂防ダムが2基入っている。さらに500mほど入ると、登山道の側面に厚さ1.5_から_2.0mの風化花崗岩がみられる露頭がある。登山道の路面には基岩が露出していることから、風化層の厚さを観察することができる。標高が300mを越えると、露出部の径が3_から_4mの岩塊や、古い崩壊跡地なども登山道沿いにみられる。標高364.1mに位置する
不動院
あたりを境に傾斜が急になり、径7_から_8mの岩塊が点在し、古い土石流堆積物がみられる。南側ピーク(571.0m)から山頂までは、森林土壌の発達する安定した地表面となっている。 貫入試験結果によると、基岩を示すN>50までの層厚は、山頂緩斜面では1.5-3.0mであり、門村(1972)で崩壊多発部位とされる山体上部の急斜面では、0.5-1.5mである。山麓緩傾斜地では2.0-7.0mとなる。これらのことから、風化層の厚さには門村(1972)の模式図と類似した傾向がみられたが、山麓緩傾斜地の風化層は門村(1972)が十数mとしているのに対し、今回の結果では最大7mと薄いことが伺えた。4.まとめ 荒谷山長楽寺登山道沿いでは、砂防ダムの堆砂状況や崩壊跡地、土石流堆積物、さらに花崗岩の風化状況など、土石流災害を生じさせる一般的な花崗岩山地の土砂移動状態を観察できる。これらの身近な自然環境の特性を知り、さらに谷ごとの堆積状態への理解が深まれば、土砂災害の発生条件やメカニズムの理解に結びつけることが可能になり、これらの情報を住民の防災意識・知識の向上をめざした自然環境教材に用いることができると考えられる。 土砂の移動は上流から下流へ向けて発生するが、登山において人間は下流から上流へ移動する。今後教材として用いる際には、この点を考慮してさらなる検討を行いたい。
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