7歳のダウン症児を対象に工作場面の共同行為ルーティンを用いて、指導者や母親の欲求意図を尋ねる行為の促進を目的とした指導を行った。その結果、指導開始時には自分の好きなほうを選んで、相手に尋ねずに与えてしまったが、指導者からの段階的援助により、他者の欲求について考えたり、迷う様子を示すなどの時期を経て、「赤と青、どっちがいい?」といった他者の欲求意図を尋ねる行為が可能になっていった。また、指導場面以外の家庭などでの自発的な使用も認められた。相互交渉によって他者の欲求意図の自律性に気づくための機会を多く与えたこと、複数の相手・場面を並行して用いて指導したことなどが指導を効果的にした要因と考えられた。これらから、適切な場面設定と援助によって、ダウン症児がコミュニケーションの基盤といえる「心の理解」を学習してゆく可能性について示唆された。
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