本研究では,スピードスケート競技文化を有する北海道十勝地方をとりあげ,スピードスケート国際大会がもたらしたスポーツ的レガシーを時間と空間の観点から検討した。ローカル(十勝地方)レベルでは,短期的にはジュニア選手がトップ選手の滑走をみて世界との実力差である“距離”を認識するとともに,トップ選手に対し憧れを抱く。このことは十勝地方からの有望選手の輩出にも寄与し,スピードスケート競技文化とスケート王国ブランドを長期的に維持するレガシーに結びついていた。主としてナショナル(日本)レベルでは,国際大会が競技界の最新動向を知る機会となり,大会運営ノウハウや審判技術を獲得・更新する。この点に加え,国際連盟基準での施設整備を実現することで,継続的な国際大会招致に結びつけていることが確認できた。大会の継続的招致は,日本人トップ選手の長期的強化にも寄与していた。さらに,グローバルレベルでは,帯広市がアジア,世界における大会開催地としてスピードスケート競技を支えていた。これらのレガシーが検証された一方で,世界との競技力の差の認識やトップ選手への憧れの醸成以外のレガシーが創出されておらず,国際大会を地元ジュニア選手の育成に十分につかいきれていないという課題も残されている。
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