台湾原住民族は長い間、国民党政府による植民や同化を受け、各族の言語文化は消滅あるいは絶滅の危機に瀕している。農耕漁労生産の方式や習慣規範、儀礼行為、神話伝説、音楽舞踏および物質文化、建築、服飾、工芸技術などに加えて、居住領域の山川海島の自然景観は原住民族の身体そのものにほかならない。主流社会の漢民族の眼差しからすれば、それらは異国情緒的魅力として映り、常に漢民族の観光対象となってきた。主流漢族社会は原住民族を蔑視し、原住民族文化の危機的状況を作り出しておきながら、観光を通じて原住民族の領域を訪れ、原住民族の文化を消費するとともに、統治者による覇権の眼差し、原住民族文化の商品化と私物化という不平等な上下的権力関係を構築してきた。
本稿では、国民党政権以降の台湾における政治変動に翻弄されてきた原住民族族社会および原住民族観光の政治的含意について批判的回顧を試みる。とりわけ、21世紀に入ってからの異なる政治的意識形態をもつ国民党と民進党の政権交替劇が、原住民族観光、原住民族の社会文化、そして彼らの身体ともいうべき自然にどのような影響を及ぼしてきたかについて言及するとともに、原住民族観光のあるべき姿について考察を加える。
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