富士山は当初「自然遺産」としての登録が試みられたが、「顕著な普遍的価値」をもつ自然としては認められないと判断された。そこで、文化的価値を主張して「文化遺産」としての登録を目指す方針へと転換され、2013年に世界文化遺産「富士山──信仰の対象と芸術の源泉」が誕生した。本論では、世界遺産・富士山の「芸術の源泉」を証明する構成資産の1つである三保松原を取り上げ、世界遺産制度の特徴や限界に注意を払いながら、動態的な文化的景観のあり方を検討する。三保松原が位置する三保半島の形成は、幾度も水害を引き起こした安倍川と深く関係しており、その保全には安倍川の適正な管理が不可欠である。また、三保松原が富士山の芸術の源泉となり得たのは、古くから日本の幹線である東海道を人々が往来し三保松原と富士山という構図を創造してきたからである。加えて、松原そのものが防災林であることから、防災の観点からも三保松原の保全はきわめて重要である。以上を踏まえて、三保松原という視座から開発や環境の変化に着目しながら富士山のレジリエントな文化的景観を検討する。
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