有効温度は飽和状態、無風速の湿り空気が与える体感温度を基準にして居り、此の基準状態の
乾球温度
の示度を有効温度の標準示度として居る。従つて一般の不飽和湿り空気が与える有効温度は不飽和量と風速に依つて生ずる
乾球温度
からの偏差を補正したものとして表す事が出来る筈である。筆者は此の観点から図式解析を主として有効温度を検討した。解析にはヤグローの有効温度図表と筆者が作成した有効温度算定用湿り空気線図(本論文第1報-I参照)を用いた。不飽和量としては次の何れかを用いる事が出来る。1.所与の
乾球温度
t(℃)に対する最大水蒸気分圧h_sとその湿り空気が持つ水蒸気分圧hとの差(飽差)即ち[numerical formula]但し、ψ:相対湿度(%)2.飽和絶対湿度x_sとその空気の絶対湿度xの差即ち[numerical formula]但し、ψ:飽和度(%)3.湿球降下[numerical formula]但しt':湿球温度(℃)きて、湿り空気の有効温度t_e,
乾球温度
t,湿球温度t'が飽和状態では相等しい事は、湿り空気線図上では、[figure]t_e線・t線・t'線が左下から右上に走る最大蒸気圧線上で一致する事に見られる。従つて2.1図に示した様に、最大蒸気圧線上のA_1点(t_<eA_1>・t_1・t_1'では、有効温度t_eA_1は
乾球温度
t_1に対して偏差を持たない。然るに、此の湿り空気に湿球降下⊿t'を生じて、湿球温度がt_1'からt_2'に下つてA点(t_<eA>・t_1・t_2')に移ると、有効温度はt_e線を辿つたA'点の示度で読みとれる様に、
乾球温度
に対し図示の如くt_1-t_<eA>=⊿t_fの偏差を生ずる。此の偏差⊿t_fは扇形A_1AA'からも観察きれる様に、湿り空気Aの水蒸気分圧h_Aとその
乾球温度
t_1に於ける最大蒸気分圧h_sとの差、即ち飽差⊿f=h_s-h_Aに対応するものであり、飽差⊿fに比例して偏差⊿t_fは変化する。又t_1に於ける最大蒸気圧h_sを持つていた湿球の湿布面の湿圧に対し、湿り空気の水蒸気分圧が⊿fの湿圧差を生じた為に初めて湿布面からの蒸発とそれに伴う潜熱放出が起動されたのであつて、湿球降下そのものが飽差に起因するものである。従つて、不飽和量としては前記三種の量の中、飽差を用いるのが合理的と思われる。湿球降下は湿球と気泡との間に生じた温度差に基づく顕熱移動がなければ、湿布の湿圧が下つて空気の水蒸気分圧と平衡する迄続けられる筈であるが、斯様な顕熱移動の為、その移動速度と潜熱放出速度が平衡した所で湿球降下は停止して所謂湿球温度を示す。此の点で残余の湿圧差により蒸発は尚続けられるが、それに依つて湿球から奪う潜熱は、空気からの湿熱移動に相殺されて湿球降下量として現れない。何れにしても、上述の偏差⊿t_fは湿り空気の不飽和に基因するものであるから、不飽和量の相当偏差(℃)と仮称する。即ち、無風速の場合の有効温度t_eoはt_eo=t-⊿t_f(2.1)さて、此の湿り空気に風速を生ずると、対流及び蒸発の促進により、有効温度の
乾球温度
に対する偏差は更に増大する。此の増加分を有効温度に於ける風速の相当偏差⊿t_V(℃)と仮称する。即ち、有効温度は一般に、t_e=t-⊿t_f-⊿t_V(2.2)つまり、有効温度算定用湿り空気線図は、
乾球温度
に対し二種の偏差の補正を加えて有効温度を算定する事になる。
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