本稿では, N.ルーマンの法理論に着目し, その有効性を吟味した.法理論の蓄積は圧倒的に法学にあるが, ルーマンはその成果を摂取し独特の理論を構築した.一見独特なルーマンの法理論は近代法システムを説明する有効な視座を提供していると思われる.
本稿では, まずルーマンの法理論の基本的性格を検討した.ルーマンの社会システム理論は, オートポイエーシス理論の導入により転回しており, 法理論も概念装置を試す場に選ばれているため, その経緯の分析を行った.ルーマンの法理論にとっては, 法システムの分立化・自律, 法の自己準拠, 法のオートポイエーシスなどの概念が導入されることで, 可能態としての任意の法創造と現実態としての漸進的法改正といった近代法秩序の特質が一層明確になった.
ただし, ルーマンは法システムの開放的な学習という視座を提供しながら, 法システムへの信頼という方向に議論を収斂させているので, 一定の困難に直面した.ルーマンは法システムの過重負担といった社会診断を適切に行い, オートポイエティックな法システムがシステム外的要因によって撹乱される可能性に言及しながら, それに対応した理論を充分に構築していない.
そこで法システムの複雑化と社会の多元化の並行性に着目し, 近代法システムの両義性を「法システムの軽減・行為主体への負荷」, 「法システムへの負荷・行為主体の自由」の組み合わせに見出した.
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