大多数の生徒は本絵が「醜い」とし,大胆にもマイナス的価値評価を下した。彼らは第一に猫の表情・ポーズに対する過剰なまでの表現意識,第二に猫に対する奇異なイメージ,第三に超絶技巧主義になじめず,違和感と押しつけがましさを抱いた。本絵鑑賞において,鑑賞能力が通常とは異なった形で現れたが,それをどのように特徴づけるか,について考察する。またそれと主題把握の類型との関係を究明する。能力の構造化の手がかりになるものとして,第一に「美的感受能力」,第二に「超絶造形技巧に対する指摘能力」に着目する。第一能力はこれまでの実践研究で考察の拠り所とした馴染みの概念である。しかし鑑賞行為で順調に発動せず低調に終わった。第二能力は本題材に限って,その意味と働きが特筆すべきものとしてせり出してくる。主題把握の諸類型を価値序列化する上で,大きな役割を果たした。
抄録全体を表示