1.はじめに
多雪地域に生育する樹木には、積雪の影響により根曲りを始めとするさまざまな変形が生じる。人工林にとってこのような変形は「雪害」であるが、見方を変えると、多雪地域にみられる林齢・樹種のほぼ揃った人工林は、積雪環境の特徴やその地域性を論じるためのよい研究対象ともいえる。本発表では、多雪地域である山形県南部のスギ植林地における樹木変形の特徴とその地域性、それらに影響を与える要因について検討した結果を報告する。
2.調査対象地域
調査を行ったのは、山形県南部の長井盆地西縁から新潟県境に位置する小国盆地にかけての地域であり、北側には朝日山地が、南側には飯豊山地が位置する。また長井・小国両盆地は、西流して日本海へ注ぐ荒川水系と最上川水系とを分ける分水界で隔てられている。この地域に多数分布するスギ植林地のうち、段丘面などほぼ平坦な地形面上に立地するものから62地点を選び、調査地点とした。
3.調査方法
調査対象地域内のスギ植林地に認められる樹木変形を、根曲り・幹折れその他6種類の類型に区分した。一調査地点あたり10ないし50本のスギについて樹木変形の種類を判別した。また根曲りしているものについては、根曲り度を調べた。各地点における調査結果を集計し、その地域的特徴について検討した。
4.結果と考察
1)根曲り
各調査地点における根曲り木の割合と平均根曲り度を求めたところ、根曲り木の割合は、朝日・飯豊山地山麓部にあたる小国盆地北部・南部で8割以上、小国盆地中央部で約5割、長井盆地側で3割弱であった。また一定の算出方法で求めた平均根曲り度をみると、小国盆地の北部・南部でともに約27度、盆地中央部で約20度、分水界を挟んだ長井盆地側で8度弱を示す。積雪量の多い地域ほど根曲り木の割合が高く、根曲り度も大きいという傾向を示すことから、積雪量の多寡に応じた雪圧の強度の違いが根曲りの状況の地域差を規定していると考えられる。
2)根曲り以外の変形
根曲り以外の変形のうち、比較的明瞭な地域的傾向を示したのは幹折れで、小国盆地北部に多くみられる傾向が認められた。この結果については、積雪量の多寡のみで説明することは難しい。また幹折れ例外の樹木変形については、特に明瞭な地域的傾向を示さなかったり、積雪量の少ない調査地点でむしろ発生頻度が高いという結果が得られた。調査対象がスギ植林地であることを考慮すると、このように積雪量の多寡と必ずしも対応しない樹木変形の特徴には、間伐・枝打ちなど人間による管理の仕方が影響している可能性がある。
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