澁澤龍彥は、没後三〇年以上が経過した現在も新たな読者を獲得し続けている。彼は近現代文学の主流から外れつつも、細く長く支持され続ける独自の流れを形成した。その出発点とも言える小説「撲滅の賦」は、埴谷雄高「意識」を典拠としているというのが従来の定説であったが、枢要部である「撲滅」は、Alphonse Allais, Plaisir de Étéに由来するものであり、「撲滅の賦」は複数の典拠を組み合わせたコラージュである。Plaisir de Étéは、André Breton, Anthologie de L'humour Noir (1950)に収録されたもので、澁澤は自作を構成する要素だけでなく、コラージュによって従来の価値観を転倒する方法論をもBretonから学び、以後、異端作家としての揺るぎない地位を確立していった。
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