本研究は,長野市内を南北に走る国道18 号線(通称アップルライン)沿いに樹園地を有するリンゴ農家を事例に観光農園の経営戦略に注目し,アグリ・ツーリズムの変化を検討する。長野盆地はアグリ・ツーリズムの先進地であり,その成立には,善光寺参詣者やスキー客の存在といった既成観光地への近接性および高度経済成長期にリンゴ生産の核心地域を縦断するように国道が開通したことが大きく影響していた。しかし,上信越自動車道の開通した1990 年代半ば以降,人や車の流れが大きく変化した結果,交通条件に恵まれた立地条件を活かし,単に観光需要に応えるだけの経営では収益の維持が困難になった。このため,農園の経営理念や栽培のこだわりを理解し,支えてくれる個人客の獲得を重視した経営に方針転換が図られた。すなわち,個々の農園の自助努力や工夫を提示することで信頼関係を築くことの重要さが増し,観光農園は,その後の継続的な注文や関わり合いを促すための交流やきっかけ作りの場へと変化していったのである。
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