慶應義塾ミュージアム・コモンズでは、印刷物エフェメラについての展覧会「エフェメラ:印刷物と表現」を2024年に開催した。それは、時間性をもった作品やコンセプチュアル・アートやパフォーマンスなど、形が残らない表現について辿るよすがとしての印刷物エフェメラ、特に機関刊行物の資料性に目を向ける機会となった。一方で時代が降ると情報伝達のメディアが印刷物からインターネットへ移行するなど刊行物や情報流通の形式が多様化したが、情報伝達メディアの変遷に敏感に反応したのがメディアアートの領域であった。例えば、1983年に設立したオランダの「Mediamatic」は、その活動の初期には議論のプラットフォームとして雑誌づくりを実践しており、CDROM刊行物、インターネット上での情報発信と時代に応じた変遷をみせている。本稿では、印刷物のメディア性と、よりマルチメディアの時代へと進んだ時に見られた刊行物のあり様について美術領域における実践を事例に検証し、特にコミュニケーション・メディアやメディアテクノロジーへの言及的表現を有したメディアアートという領域における伝達メディアと表現について考察する。
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