熊本県新八代駅周辺の新幹線高架橋のスリット(間隙)でオヒキコウモリTadarida insignis,アブラコウモリPipistrellus abramusおよびヒナコウモリVespertilio sinensisの3種の生息が確認され,さらに音声記録から九州産の既知種とは異なる1種(PF値平均36 kHz)が生息している可能性も示唆された.オヒキコウモリの越冬集団は日本で初めての記録であり,新幹線高架橋におけるヒナコウモリの集団の発見は九州で初めてである.オヒキコウモリとアブラコウモリは繁殖集団を形成し,8月に幼獣集団がみられた.オヒキコウモリは繁殖場所と越冬場所を使い分け,越冬場所はより狭い(隙間3 cm前後)空間を利用していた.スリット利用の総個体数のピークは,オヒキコウモリで5月(118頭)と10月(124頭),アブラコウモリで9月(244頭)であった.東西両側のスリットの選択は,採餌空間の利用方向に関係すると示唆された.出巣開始時刻は,アブラコウモリで日没の平均22分後,オヒキコウモリでは平均36分後で前者より遅かった.オヒキコウモリの糞分析による被食昆虫の目レベルの絶対出現頻度から,主食は鱗翅目成虫で,次いで半翅目,双翅目,脈翅目,鞘翅目および蜻蛉目成虫の順であった.これらの中には農業害虫が含まれており,人工ねぐらの場所と関連して,農業生態系の中で有益な役割を担っていることが示唆された.コウモリ類の新たな生息種を知る上で,高架橋のスリットの調査は有効であると考えられた.
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