目的:陣羽織は戦国時代から江戸時代末期にかけて、武士が具足や鎧の上に羽織ったものである。本研究は、奈良県磯城郡田原本町K家に伝わる陣羽織(以下本資料)について、形態・構成や素材を明らかにすることを目的とした。
方法:本資料の形態・構成、加飾技法、裂(文様、組織・繊維・測色)を調査した。色名は色見本との目視の比較により示し、測色はNR-3000(日本電色)により実施した。
結果:本試料は身丈815 mm、肩幅556 mm、裾幅545 mmで標準的な寸法であった。構成は袖がなく、衿は立衿と胸衿から成り、背割りがあり、この形態は江戸時代中期以降に多く見られた。加飾技法には裂の接合部に切付け、短冊形の前留めに釦とボタンホール、衿留めとして八つ組の組紐などが見られた。素材は絹と一部箔糸が使用されていた。立衿は錆浅葱色(L*=51.09、a*=1.12、b*=-4.09)の平織、裏地は珊瑚朱色(L*=53.32、a*=34.42、b*=26.04)の繻子織であった。胸衿には宝尽くし、身頃には桐に鳳凰、背の飾りに雲鶴文などの吉祥文様が用いられており、各地組織では斜文織が見られた。身頃や胸衿など数箇所で、撚りのない糸をひきそろえてたて糸に使われていた。地色は身頃で茄子紺(L*=27.20、a*=26.44、b*=0.88)、胸衿で洗朱(L*=45.23、a*=35.04、b*=29.71)、身頃下部と胸衿下部で白練(L*=73.13、a*=4.76、b*=15.75)、背の飾りで猩猩緋(L*=43.20、a*=43.50、b*=29.36)であった。これらの地組織に白練、銀煤竹、木賊色、活色、朱色、
勿忘草色
などで文様が織られている。
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