本稿では,電力自由化を進めれば原子力政策が阻害されるとの仮説を踏まえ,日本における福島第1原発事故後のエネルギー政策過程を分析した。欧米先進国では,1990年代以降の電力自由化の結果,初期投資が莫大でリスクが高い原発への投資が停滞している。日本では,自由化を抑制することで原発の開発が進められてきたが,原発事故を受けて状況は一変した。民主党政権は,脱原発を政治決定すると共に,その手段としても自由化の推進を打ち出したのである。これに対して自民党政権は,原発復活を目指すと共に自由化も進めるという。一見矛盾するような政策の組み合わせの裏には,「新たな国策民営」を模索する「産業介入型」の経産省の深慮があった。3.11を経て国家的課題となったエネルギー政策分野において,経産省は原発を維持するために直接的関与を強めつつ,自由化に対しては「管理された競争」を演出しようとしているのだ。
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