医薬品化学
の分野におけるフッ素原子の重要性は古くから認知されており,1950年代にはステロイドをフッ素化することでその薬効や選択性が向上し得ることや,ピリミジン塩基をフッ素化した5-フルオロウラシルの抗がん作用などが報告されている.近年の米国における売り上げ上位30位の医薬品の3分の1がフッ素原子を含んでいることからも,その重要性を疑う余地はないであろう.
また近年「化合物合成終盤におけるフッ素原子導入(late-stage fluorination)」という概念が注目を集めている.フッ素に限らず
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に汎用される原子や置換基であれば何であれ,化合物合成の終盤に導入することができれば合成経路の一般性と効率が高まるために有利となるのは論を待たない.ではなぜ,例えば塩素やシクロプロピル基のように
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の分野で頻繁に用いられる他の置換基と異なり,フッ素のみがこのような注目のされ方をしているのだろうか?
その理由として,①フッ素化のように本質的に困難な官能基変換を合成の終盤で行うことが近年の化学の進歩によって,ようやく技術的に可能になり始めていること,②フッ素化が
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の中でも取り分け有用であること,そして③フッ素の放射性同位体(
18F)を用いたポジトロン断層法(positron emission tomography:PET)測定の有用性と
18Fの半減期による制約,が挙げられる.以下,本稿ではこの3点を解説する.
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